脊柱管狭窄症で腰が痛むケース
『脊柱管狭窄症』の詳細 - 症状・原因・治療法
腰痛を引き起こす可能性のある病気や障害の一つに「脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)」があります。ここでは、その特徴や腰痛との関連について解説します。
<目 次>
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1.脊柱管狭窄症が疑われる症状
腰の痛みのほかに、以下の様な症状・特徴が見られる場合、腰部に脊柱管狭窄症が発症している可能性があります。
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腰痛よりも、足のしびれや痛みなどの"下半身の異常"が主な症状で、背筋を伸ばして立ったり歩いたりする時に起こります。
痛みとしびれで長く歩くことができず、腰を丸めて休むと楽になり、またしばらく歩くと悪化するという「間欠跛行(かんけつはこう)」が患者の多くに見られ、腰痛は発生しないケースもあります。痛みやしびれは、腰、お尻、足にかけて見られ、足がもつれたり、足の力が抜けたりすることもあります。
他の特徴的な症状は、胸を張る、背筋を伸ばすなど、「腰を後ろにそらす姿勢をとると症状が悪化し、逆に腰を前に曲げると楽になる」ことです。杖をついて歩いたり、カートを押して歩いたり、前傾姿勢で自転車をこぐなど、前かがみでの動作ならあまり苦になりません。
◆こんな症状が見られることも
- 下半身が冷たく感じる、足の裏の感覚がおかしくなる
- 股間に熱さを感じる
- 夕方や天気が崩れそうな時に痛みやしびれがひどくなる
→気圧の変化によって患部周辺の血管が収縮することが関係しているといわれます
◆重症時
神経の束である馬尾神経が障害されると、日常生活に支障がでるほどの重い症状(馬尾症状)が現れることがあります。
馬尾症状の例
- 膀胱や直腸の障害
尿がでにくい、もれる(失禁)、回数が増える(頻尿)、ひどい便秘、会陰部がムズムズする、歩いている最中に勃起する(男性)、お尻のまわりがほてる等 - 仰向けに寝ていても足がしびれる。横向きになって背中を丸めないと眠れない
- 体に強いマヒがみられる
- 強い痛みやしびれ、筋力の著しい低下などによりほとんど歩けない
2.脊柱管狭窄症とは? - 特徴や原因
背骨の内側には「脊柱管」という空間があり、普通の神経のほか、中枢神経「脊髄」や、神経の束「馬尾神経」も通っています。この脊柱管が何らかの原因により狭くなり、中の神経が圧迫されることで様々な障害が発生する病気が脊柱管狭窄症です。
この病気が腰椎(腰部の背骨)で発生すると、腰痛が生じます。
◆脊柱管が狭くなる原因
人は歳をとるほど体のあらゆる組織が老化してゆき、機能が低下したり変形したりします。
脊柱管の周囲の骨や靭帯が老化によって変形した結果、脊柱管が狭くなるケースが大半です。
脊柱管は背骨の内側の空間です。背骨を構成する固い骨(椎骨)がトゲのように出っ張ったり、椎間板が膨らんだり、椎間関節が大きくなったり、靭帯が硬くなったりと、いくつかの要因が重なって脊柱管が狭まります。
老化以外にも、生まれつき脊柱管が狭かったり、腰椎の変形を伴う病気やケガ、腰の手術の結果として起こるケースもあります。
- 椎間板ヘルニアの手術、腰椎分離症・分離すべり症、変形性脊椎症(変形性腰椎症)、脊椎側弯症、脊椎カリエス、化膿性脊椎炎、骨粗鬆症による圧迫骨折など
◆こんな人に発症しやすい
- 50歳以上の高齢者
脊柱管狭窄症は自然な老化現象の一種なので、年をとるほど発症しやすくなる。70〜80歳代にもなれば、程度の差はあっても多くの人がこの病気による腰痛を感じていると考えられる。 - 若いころから腰痛持ちの人や、腰のケガや病気を繰り返している人
腰に大きな負担がかかるほど、腰椎の組織が疲弊して変形しやすい。 - 日頃から背筋を伸ばすことの多い人
職業なら俳優やアナウンサーなど。体の重心を後ろ側に乗せた姿勢では脊柱管が狭くなる。 - ゴルフ好きの人
ゴルフスイングの動作が脊柱管を圧迫するため、特にゴルフ好きの中高年者は要注意。
◆脊柱管狭窄症のタイプ
背骨を通る神経は、脳から腰のあたりまでは一本の太い神経「脊髄」であり、腰の上のほう(第一腰椎のあたり)から「馬尾神経」という細い神経の束になり、そこから足先に向かって細く枝分かれしていきます。この神経一本一本の根本を「神経根」と呼びます。
どの神経が圧迫されているかによって、現れる症状や治療方針が変わってきます。
神経根が圧迫される「神経根型」では、 歩くと痛みやしびれが強くなり、腰を丸めて休むと症状が和らぎまた歩けるようになる間欠跛行が見られます。前かがみになると脊柱管が少し広がるため症状が和らぐのが特徴です。治療は基本的に手術以外の治療法が採られます。
一方、馬尾神経が圧迫される「馬尾型」や、神経根と馬尾神経が圧迫される「混合型」では、両足に症状が現れ、排尿障害や強いマヒなどの日常生活に支障をきたす重い症状(馬尾症状)が現れやすく、時間と共に徐々に症状が悪化する傾向があります。治療も症状の重さや進行具合によっては手術が検討されます。
3.診断・治療・予防
◆診断
脊柱管狭窄症には、「腰を反らせた時に痛む」、「下半身にも痛みやしびれがある」といった特徴的な症状があるため、詳しく症状を聴き取ることで、ある程度あたりをつけることができます。
更に、どの神経に異常があるか探るために、体を動かした時の反応から神経の異常を調べる「神経学的検査」を行ったり、MRIやCTスキャンなどの画像検査で、異常のある部位や神経の圧迫の程度を詳しく観察します。
※椎間板や靭帯などの軟性組織が神経を圧迫していることが多いので、骨を映すレントゲン検査では詳しい状況はわかりません。
【関連項目】
◆治療
基本的な処置としては、腰の負担を軽くするさまざまな対策を行った上で、しばらく経過を観察します。
狭くなった脊柱管が自然に広がることはありませんが、病状が軽ければ、腰の負担を軽くすることで神経の圧迫が弱まり、症状が和らぐことが多いです。
症状が改善すれば、以降は日常生活において姿勢や動作に気をつけながら、運動療法によって腰を強くして症状の悪化を抑える流れになります。症状が良くならなかったり悪化するようなら、脊柱管を広げる手術を行います。
1.腰の負担を軽くして痛みを抑える
障害されている神経が「馬尾神経」ではなく「神経根」である場合、腰痛や歩行時の足のしびれなど、比較的軽めの症状が多いです。こうした場合、すぐには手術を行わず、まずは腰の負担を軽くするための様々な処置を状況に応じて行います。約70%の患者は、手術以外の治療法(保存的療法)によって症状が軽くなるといわれます。
- 日常生活では前方に体重をかけるよう意識し、体を反らす動作は極力避ける。また、同じ姿勢を長時間続けたり、一度に長い距離を歩く、重い荷物を持つなどの腰の負担の大きい行為を避ける
- 腰にコルセットをつけ、上体が後ろに反らないようにする(装具療法)
- カイロ、ホットパック、腹巻きなどで腰を温め血行を良くする(温熱療法)
- 痛みがひどければ痛み止めの薬を使用する(薬物療法)
- 軽めの運動やストレッチにを行って、神経の圧迫を和らげたり血行促進を図る(運動療法)
脊柱管狭窄症には腰を丸める体操、前屈運動が有効です。定期的に行うことで、脊柱管を徐々に広げる効果が期待できます
【関連項目】
2.こんな場合は手術を検討
- 保存療法を一定期間続けても症状が全く良くならない
治療中は1ヶ月に一度くらい定期的に検査を行い、症状が改善されているかどうか調べます。症状にもよりますが3か月〜半年たっても改善しない、または悪化している時には手術を検討します。 - 症状が重く、日常生活に支障をきたしている
歩行困難、強い体のマヒ、筋力の著しい低下、頻尿・尿漏れ・尿や便が出ないなどの「馬尾症状」が現れたり、神経がひどく損傷して痛みが激しいなど、生活に大きな不便をきたしている時も手術が検討されます。
<主な手術法>
脊柱管を狭めている周囲の骨や靭帯を一部切除し、脊柱管を広げて神経の圧迫を少なくすることを目的とします。
- 椎弓切除術
脊柱管が数ヶ所で狭くなっている時に行われる。神経を圧迫している組織を部分的に切除する。 - 部分椎弓切除術(開窓術)
脊柱管が一ヶ所で狭くなっている時に行われる。椎弓を一部切除し、そこから神経を圧迫している組織を切除する。内視鏡や顕微鏡を使った方法もある。 - そのほか、日赤式椎弓形成術、日赤式脊椎制動術、脊椎固定術など
【関連項目】
<手術後の経過や再発について>
手術が成功すれば、痛みやしびれが解消されることが多いですが、必ず望んでいた結果が得られるとは限りません。馬尾症状が見られるなどの重症ケースでは、神経がひどく損傷していてしばらく症状が残ったり、完全に治らないこともあります。
また、脊柱管狭窄症は再発が多いことで知られています。
この病気は加齢に伴う老化現象として生じることが多く、体の老化は防ぎようがないため、手術後も時間が経てば再び神経の周辺組織が変形して再発することがあるためです。手術後5年では10%以上、8年では約20%に再手術が必要になるとのデータもあります。とはいえ手術によって数年間は症状は良くなりますし、再発も5人に1人程度と考えれば手術は有効な治療手段です。
再発率を低くするには、老化を遅らせることが重要です。「"適度"な運動を、"定期的"に行う」、「暴飲暴食をせず、栄養バランスの良い食事をとる」、「趣味や生きがいを持ち、ストレスをためない」、「夜更かしせず睡眠を十分にとる」といった健康的な生活を送ることが、老化のスピードを遅くすることにつながります。
4.腰部脊柱管狭窄症データ
【受診科】
- 整形外科
【腰部脊柱管狭窄症の原因となる病気・障害】
- 腰椎椎間板ヘルニア、腰椎分離症・分離すべり症、変形性脊椎症(変形性腰椎症)、脊椎側弯症、脊椎カリエス、化膿性脊椎炎、骨粗鬆症による圧迫骨折など