痛みを生じる姿勢や動作による分類
腰痛の種類 - どんな体勢をとった時に痛むか
腰痛は、特定の姿勢や動作をした時に痛みが生じたり、痛みが大きくなったりすることが多く、大きく分けると「腰を前に曲げた時に痛むタイプ」、「後ろに反らせた時に痛むタイプ」、「姿勢や動作に関係なく痛むタイプ」の3つがあります。
こうした違いは腰痛の原因を探る上でも重要な情報になります。
それぞれどんな腰の病気・障害でよく見られるのか、痛みの発生するメカニズムなどについて解説します。
<目 次>
1.前かがみで痛む「前屈障害型腰痛」
おじぎをするように腰を前に曲げると、痛みが生じたり痛みが強まったりするタイプの腰痛です。
腰を動かさずに安静にしていたり、腰を後ろに反らせた時には、痛みを感じなかったり和らいだりするのも特徴です。
◆なぜ前屈すると痛むのか
原因1.筋肉疲労
前かがみや中腰の姿勢をとった時には、体が前に倒れないよう背中側にひっぱる力が働いてバランスをとります。この時に使われる筋肉が腰の後ろ側の筋肉「背筋」です。前かがみや中腰などの姿勢を続けていると背筋が傷んでしまい、背筋を酷使する動作をした時に、筋肉疲労による腰痛(筋・筋膜性腰痛)が生じます。
体を休めて安静にしたり、腰を後ろに反らせている時は、背筋はあまり使われないため痛みが軽くなります。
原因2.椎間板の異常
前かがみや中腰の姿勢は、背筋のほか、腰の骨や椎間板、靭帯など、腰椎の組織全体に大きな負荷をかけます。筋肉が疲労していると、腰椎を支える力が低下して、更に負担が大きくなります。
椎間板は骨の間に挟まるクッションのようなものです。強い負荷がかかり続けると、椎間板が押しつぶされて傷んだり(椎間板症)、前屈した時に椎間板の前方に更に強い圧力がかかることで、椎間板の中のゼリー状の物質「髄核」が椎間板を突き破って背中側にはみ出し、神経を圧迫して痛みをもたらします。(椎間板ヘルニア)
安静にしている時は椎間板全体への圧力が減ります。腰を反らせた時は椎間板前方への圧力が減って、飛び出したヘルニアもやや元の位置に戻り、神経の圧迫が弱まるため痛みが和らぐことが多いのです。
◆「前屈障害型腰痛」 まとめ
- 腰を前に曲げた姿勢や中腰の姿勢を長く続けたことがきっかけで起こりやすい
- 腰を後ろに反らせると痛みが和らぐ
- 体の重心が前にかかり過ぎていることが原因であるため、重心を後ろへ戻してあげることが治療のポイント。日常生活において前屈や中腰の姿勢や動作を極力避け、腰を反らせる腰痛体操を行うことで症状の改善を図ることができる
- 同タイプに分類される主な腰の障害:椎間板症、椎間板ヘルニア、筋・筋膜性腰痛
2.後ろに反ると痛む「後屈障害型腰痛」
上体を反らせて腰を後ろに曲げると痛みが生じたり強まったりするタイプの腰痛です。
腰を動かさずに安静にしていたり、腰を前に曲げている時には、痛みを感じなかったり和らいだりします。
◆なぜ後屈すると痛むのか
後屈型の腰痛は、主に腰を反らせた時に"神経が圧迫される"ことで生じます。
原因1.加齢に伴う腰椎の変性(形や質の変化)
後屈障害型腰痛は高齢者に多くみられます。これは歳をとるにつれて、腰椎を構成する骨、椎間板、靭帯などの組織が老化して変形していくためです。
腰椎の内側には神経の通り道である「脊柱管」という空間があります。この脊柱管の周囲の組織が変形して脊柱管が狭くなると、中を通る神経が圧迫されて腰の痛みや足のしびれが生じます(脊柱管狭窄症)。また、変形した骨が周囲の組織を刺激して痛みをもたらすこともあります(変形性腰椎症)。
腰を反らせると、神経と周囲の組織の距離が近くなるため痛みが生じやすく、前かがみになると離れるため痛みが和らぐ傾向があります。
原因2.腰椎の骨折
腰を反らせる動きを長期間にわたり何度も続けていると、腰椎の骨同士をつないでいる椎間関節という関節にヒビが入り、ひどい時は骨折して前後に離れてしまうことがあります。関節の異常によって上下の骨にズレが生じ、骨の内側の神経が圧迫されて痛みを生じます(腰椎分離症・すべり症)。
こうした疲労性の骨折は激しいスポーツをする少年少女によく見られます。
◆「後屈障害型腰痛」 まとめ
- 腰を反らせる動作を長期間続けたり、加齢による腰の老化がきっかけで起こりやすい
- 腰を前に曲げると痛みが和らぐ
- 腰椎の変性によるものが多く、背中をそらせることで神経が圧迫されて痛みが出る。痛みを生じる姿勢や動作、運動を避けることが症状の改善につながる。腰を丸める腰痛体操を行うことで痛みが和らぐこともある
- 同タイプに分類される主な腰の障害
脊柱管狭窄症、腰椎分離症・すべり症、変形性腰椎症、腰椎上部の椎間板ヘルニア
3.姿勢や動作に関係なく痛むタイプ
腰痛の中には、「腰をどう動かしても痛い(どんな体勢でも痛みが軽くならない)」、「安静にしていても常に痛い」といったタイプのものもあります。
ケース1.腰の障害が複数発症している
腰を前に曲げても後ろに反らせても痛いという場合、「前屈障害型腰痛」と「後屈障害型腰痛」が合併している可能性があります。
たとえば椎間板ヘルニアと脊柱管狭窄症の両方を発症しているようなケースで、特に加齢によって腰椎の変性が進んでいる高齢者に多く見られます。自然に治る見込みは低いため、なるべく早く整形外科を受診して治療を受けましょう。
ケース2.ストレスや内科的疾患による腰痛
腰に異常がなくとも、不安やストレスなどの心の不調が原因で腰痛を発症したり(心因性腰痛症)、内臓の病気が腰痛をもたらすことがあります。姿勢や動作に関係なく痛み、腰痛以外の症状も現れることが多いといった特徴があります。
◆ストレスによる腰痛の特徴
- 痛む箇所、痛み方、痛みの大きさが変わる
日によって痛む場所が移動することが多い。1か所だけでなく腰や背中など複数の部位が痛む傾向がある。痛みが増したり和らいだりする。痛み方が変わる - 姿勢や動作に関係なく痛む
腰をどう動かしても痛む。どんな姿勢をとっても痛みが楽にならない - 腰痛が長期間続く
半年以上がんこな痛みが続き、一度治まってもたびたび再発するなど、腰痛が慢性化している - 嫌なことを始める前など、ストレスが大きくなる時に痛み始めたり痛みが大きくなる
- 腰痛以外の症状がある
頭、首、肩なども痛んだり、肩こり、不眠、胃の不快感、吐き気、動悸など、全身のあちこちに腰痛以外の不調がみられることが多い
◆内蔵の病気による腰痛の特徴
- 安静にしていても痛む
夜寝ている時に痛みで目が覚めたりする。どんな姿勢をとっても痛みが楽にならない - 腰痛以外に内科的症状がある
発熱、寒け、吐き気・嘔吐、だるさ、腹痛、背中痛、胸痛、排尿や排便の異常、血尿など - 一週間以上痛みが続き、全く軽くならず、徐々にひどくなっていくこともある
- 食事に関連して痛みが変化することもある
空腹時や食後に傷む、油っぽいものを食べると痛む、食事中は和らぐなど