民間施設で行われる腰の治療法について

『腰の痛み』タイトル
腰痛の症状から原因を調べる
腰痛症状フローチャート・チェックリスト
腰痛フローチャート
腰痛の原因・病名一覧 腰によくない要因・悪い習慣
サブメニューに移動
イラスト図解:腰背部の構造・骨格・筋肉

メニュー > 腰の痛みの治療法2(民間療法・代替療法)

民間療法の種類と効果

腰痛は、医師が常駐する病院や診療所などの医療機関で治療を受けるのが基本ですが、それ以外にも、整体、整骨・接骨、マッサージ、カイロプラクティック、鍼灸などの技術やサービスを提供する民間の施設でも治療を受けられます。
これらは「民間療法」や「代替療法」と呼ばれるものです。民間療法の種類ごとに、その内容と特徴、見込まれる治療効果、利用の際の注意点などを解説します。

<目 次>

  1. 民間療法・代替療法の種類と特徴
  2. 腰痛改善の効果は?
  3. 利用時のポイント・注意点

スポンサーリンク

1.民間療法・代替療法の種類と特徴

腰痛に対して医療類似行為を行う主な技術やサービスには、「整体」、「整骨」、「マッサージ」、「カイロプラクティック」、「鍼灸」があります。

1-1.整体

整体イメージ

整体の目的は、体全体の骨格や関節のゆがみ・ズレを調整して正常な状態に直す(矯正する)ことです。
施術者の手足や補助道具を使い、患部やその周辺を揉んだり、つぼを刺激したり、筋肉を伸ばしてストレッチを行ったりすることで、筋肉の緊張をほぐし、体のバランスを改善します。

主な目的

筋肉の緊張を揉みほぐすことで、体のゆがみを矯正する

資格・健康保険について

「整体師」という民間資格があります。ただし、整体師を名乗って働いたり整体院を開業するのに資格免許が必要なわけではなく、無免許でも行えます。治療に健康保険は適用になりません。


1-2.整骨・接骨

整骨の目的は、骨の固定や整復(※)によって、骨折、脱臼(だっきゅう)、打撲(だぼく)、捻挫(ねんざ)などのケガを治療することです。施術者の手足や補助道具を使って施術します。柔道で生じたケガなどを治療するために始まった歴史の古い手法です。
※「整復」:骨折や脱臼の生じた箇所を、もとの正常な位置になおすこと

主な目的

骨を固定したり、骨や筋肉、関節などを動かすことで異常の生じた箇所を元に戻す

資格・健康保険について

施術・治療を行うためには、「柔道整復師」という国家資格が必要です。3年の専門教育を受けた後に国家試験に合格することで取得できます。
健康保険は対象になる場合とならない場合があります。対象となるのは、急性などの外傷性の打撲・捻挫・および挫傷(肉離れなど)・骨折・脱臼の場合のみです。骨折・脱臼については医師の同意が必要です(応急処置を除く)。単なる肩こりや筋肉疲労では対象になりません。


1-3.カイロプラクティック

背骨と骨盤の矯正

体の土台である背骨(脊椎)がゆがんでいると、腰痛のほか、頭痛、肩こりなど様々な体調不良が置きます(参考:背骨の歪みと腰痛)。カイロプラクティックでは、脊椎を矯正して正常な位置・形状に戻すことを目的とします。そうすることで体全体のバランスがよくなり、一部に過剰な負担がかからなくなって症状の改善が期待できます。主に施術者の手足や補助道具を使って矯正を行います。

主な目的

背骨(脊椎)を整えることで、体全体ののバランスをよくする

資格・健康保険について

日本における資格はありません。施術、開業、学校の設立も自由にできます。治療に健康保険は適用になりません。
一方、海外では専門の大学があり、卒業時に職業学位が取得できます。卒業後にカイロプラクターとして働くには極めて難しい資格試験に合格しなくてはならず、欧米では医師と同じぐらいの社会的地位があります。


1-4.マッサージ

マッサージのイメージ

ここでは国家資格が必要な「あん摩・指圧」について解説します。
筋肉を揉みほぐしたり、指で体のツボを刺激(指圧)することで、血液やリンパ液の流れを良くし、新陳代謝を活発にします。それによって筋肉のコリや張りを和らげたり、関節の動きを良くするなどの効果があります。そのほか、体の機能をコントロールする自律神経の働きをよくして、内臓の働きを活発にする作用もあります。

特に資格が必要なく、一般的にマッサージに分類されているものには、リンパマッサージ、アロママッサージ、リフレクソロジー、タイ式マッサージなどがあります。

主な目的

筋肉をほぐし体の血行を良くすることで、筋肉疲労や関節の動きの悪さを改善する

資格・健康保険について

「あん摩マッサージ指圧師」という国家資格があります。3年間(大学は4年間)の専門教育を受けた後に国家試験に合格することで取得できます。施術・治療を行うには国家資格が必要ですが、実際には資格を持たない施術者も多くいるため注意が必要です。
健康保険は一定の要件を満たす場合のみ適用になります。おおざっぱに言うと、筋肉や関節に障害があり、その治療のためにあん摩・マッサージの施術が必要と医師が認めている時です。施術時には医師の同意書が必要になります。疲労回復や慰安目的の場合は保険適用外です。


1-5.鍼灸(しんきゅう)

針と灸のイメージ

東方医学の方法論に従って、針で刺したり灸をすえることで体のツボを刺激して筋肉の緊張を和らげます。筋肉がほぐれると血液の流れ(血行)が良くなり痛みが和らぎます。 筋肉痛や神経痛による痛みに効果があります。

血液中の血小板が減っていたり、脳梗塞の予防などで血液を固まりにくくする薬(抗血栓薬、抗凝固薬など)を服用している人は、鍼灸治療は避けるべきとされています。

主な目的

ツボを刺激して体の血行を良くすることで、筋肉の緊張や痛みを和らげる

資格・健康保険について

施術・治療を行うためには、「鍼灸師」という国家資格が必要です。3年間(大学は4年間)の専門教育を受けた後に国家試験に合格することで取得できます。
健康保険は特定の病気の治療時のみ適用になります。神経痛、リウマチ、慢性腰痛、ぎっくり腰、五十肩、頚腕症候群、頚椎捻挫後遺症などです。疲労回復や慰安目的の場合は保険適用外です。

スポンサーリンク

2.腰痛改善の効果は?

前述したような民間療法や代替療法は、実際のところ、どの程度の腰痛改善効果が期待できるのでしょうか。

結論から言うと、
腰痛の種類や原因によっては一定の効果があります。ただし医療機関で行われる腰痛治療以上の効果があるとは言えません

腰痛の定義、診断、治療などに関して科学的証拠をもとに開設された「腰痛診療ガイドライン」においても、"代替療法は急性および慢性腰痛に対して、他の保存的治療よりも効果があるとはいえない"とされています。

◆どんな症状に対して効果的なのか

腰の筋肉痛

民間療法は手技を使った治療法(徒手療法)が中心です。筋肉をほぐしたり、ツボを刺激して血行を良くすることで痛みを和らげるものが多いため、腰のコリや張りをともなう筋肉痛やぎっくり腰など、筋肉疲労を原因とする腰痛、特に痛みが出てからあまり日数の経っていない急性腰痛に対して一定の効果があります。

また、マッサージなどで気持ちよさ、心地よさを感じることが痛みの軽減につながったり、ストレスが解消されることで精神的ストレスから生じる腰痛を改善する効果も見込めます。

逆に、椎間板ヘルニアのように、骨や椎間板の変性を原因とする腰痛や、痛みが長期間続いている慢性腰痛に対しては、一時的に痛みを軽くすることはできても、腰痛を完全に解消するのは難しいです。ただし、カイロプラクティクなどで脊椎の矯正を行うことで腰痛が解消されるケースもあります。

◆科学的根拠に乏しい

民間療法・代替療法が筋肉疲労による腰痛や急性腰痛などに対して一定の改善効果をもつのは確かです。しかしそれ以外の腰痛に対しては明らかな効果は認められおらず、はっきり有効であるとはいえません。いずれの手法も十分な研究が行われておらず科学的な証拠が乏しいのが実情です。しかし効果が無いという根拠も提示されていません。

◆痛みが消える理由

明らかな科学的根拠に乏しいにも関わらず、慢性的な腰痛にも一定の効果が見られる理由はいくつか考えられます。

理由1.プラセボ効果・ストレス解消効果

プラセボ効果とは、偽薬効果やプラシーボ効果とも呼ばれ、医療の世界ではよく知られています。
薬効成分の入っていないニセ物の薬を「大変よく効く薬で、確実に痛みが取れますよ」といった風に大げさに説明して飲んでもらうと、実際に効果が現れるというものです。
「病は気から」という言葉があるように、その人の気持ちの持ち方や、その時どきの心理状況によって、特定の症状が現れたり、病状が良くなったり悪くなったりするのは決して珍しいことではありません。


<プラセボ効果のしくみ>

痛みは神経を伝わる

体が損傷した時、痛みの信号は神経を伝って流れ、脳まで伝わってはじめて痛みを感じます。人間の脳にはこの痛みの信号を抑制するシステム「下行性疼痛抑制系」が備わっています。
このシステムが活性化すると痛みを感じにくくなり、働きが悪くなると普段は感じないような小さな痛みでも大きな痛みとして感じるようになります。

システムが活性化するのは、前向きな気持ちになったり、達成感や高揚感を感じたり、好きなことをして楽しさや気持ちよさを感じた時です。一言で言えば「気分が良い時」です。こうした時には脳からドパミンやエンドルフィンといった脳内物質がたくさん分泌されることでシステムが活性化します。

逆に、長期間ストレスや不安のある状態が続くと、この痛みを抑えるシステムがうまく働かなくなって慢性的な腰痛を発症しやすくなります(心因性腰痛症)。こうした場合、マッサージや鍼灸を受けて気持よさ・心地よさを感じることでストレスが解消され、痛みを制御するシステムが正常に戻り、腰痛が改善されるケースがあります。


<前向きな気持ちの重要性>

通常の内服薬の効果も、その40%程度はプラセボ効果で、手術に至っては約70%にもなると言われます。
プラセボ効果は治療に対する期待や思い込みが強いほど効果も大きくなるのです。「100円の安い薬です」と説明するより、「1個1万円もする高価な薬です」と言ったほうがよく効くという報告もあります。全く同じ治療を受けても、診察したのが有名な医師の場合だと治療後の経過が良好だったりします。さらにプラセボ効果はその時だけにとどまらず長続きするのです。

逆に、「この治療は効かない」、「私の腰痛は決して良くならない」などと思いながら治療を受けると、治療効果はよくありません。さらに医療や医師に不信を抱いていたり、仕方なく治療を受けているような時も治療効果は悪くなります。


理由2.自然に治っている

腰痛の9割は特別な治療を行わなくても自然に治ります。筋肉痛やぎっくり腰なら1週間程度、その他の腰痛でもだいたい1ヶ月もすれば大分良くなります。
完治までにやや時間のかかるケースでは、民間療法によって一時的に症状が抑えられている間に、時間の経過によって自然に治ったものを民間療法の効果だと信じてしまうことも少なくありません。


理由3.科学的根拠はないが本当に効果がある

必ずしも「科学的根拠がない」=「治療の効果が低い」とは限りません。科学的根拠を明らかにするには、多くの時間とお金がかかります。現時点では科学的根拠がないとされている治療法の中にも、将来、科学的根拠が証明される可能性のある治療法が存在しているといえます。

◆まとめ

たとえ科学的な根拠に乏しい治療法であっても、患者本人が、"これが効く"、"心地よい"と思っていて、プラセボ効果も手伝って、実際に腰痛が楽になるのであれば、それは問題無いと思います。
ただし、腰痛の原因は色々あるので、病院には行かず、ずっと民間療法だけというのはよくありません。腰の骨や椎間板の状態を画像検査で確認したり、内臓の病気が原因である可能性を調べたりすることは必要です。
医学的な診察を受けた上であれば、代替療法や民間療法を続けてもかまわないと思います。結果的に腰痛が良くなればそれでいいのです。

3.利用時のポイント・注意点

民間療法・代替療法を受ける際には、いくつか気をつけるべきポイントがあります。

◆はじめは整形外科へ

病院で診察を受ける

腰の骨や神経に異常があったり、内蔵の病気が関わっていたりと、腰痛の原因は色々です。こうしたケースでは民間療法での完治は難しいでしょう。
痛みの程度に関わらず、主な症状が腰痛である場合は、まずは病院の「整形外科」を受診しましょう。整形外科が扱う疾患の中で、腰痛は最も一般的なものです。さらに脊椎や脊髄を専門とする医師がいる病院ならなお良いです。

整形外科で問診や画像検査を受け、おおまかな原因を特定することが大事です。症状によっては精神科や神経内科、脳神経外科、泌尿器科、循環器科などで治療を行うことになる可能性もあります。
医学的な診察を受けた上で、画像検査では腰に明らかな異常が見つからず、筋肉疲労やストレスが原因であると診断された場合は、代替療法や民間療法を行ってみるのも良いと思います。

◆良い施術者かどうか見極める

病院の医師になるには医師免許が必要で、その習得のためには大学における6年間の専門教育と、国家試験の合格という高いハードルがあります。そのため、ほとんどの医師には一定レベルの専門知識や技術があります。
それに対し、民間療法における国家資格は、「あん摩マッサージ指圧師」、整骨・接骨の「柔道整復師」、鍼灸の「鍼灸師」のみで、その他は民間資格であったり、特に資格や知識・経験がなくとも開業および治療ができるものがほとんどです。言ってしまえば全くの素人でも熟練者のふりをして施術できてしまいます。
実際、事前に1ヶ月程度の机上の学習しか行わず、浅い知識のみで施術を繰り返して患者を実験台にして経験を積んだり、国家資格が必要なのに資格を持たない施術者が治療を行っているような悪質なケースも少なくありません。

大きなトラブルや障害を引き起こすことも

脊椎の異常

人体の構造(解剖学)を熟知していない未熟な者が、背骨や骨盤などの骨格を矯正したり、関節のズレを調整するような行為を行うことは大きな危険をともない、病状をかえって悪化させることになりかねません。
全ての民間施術者が危険性の高い施術を行っているわけではありませんが、不要なトラブルや取り返しの付かない事態を避けるためにも、民間療法を受ける際にはまず医師とよく相談し、その上で施術者が解剖学的知識を備え、十分な経験を積んでいるかどうかを確認してから治療を受けましょう。
「権威のある資格を持っているか」、「長期にわたって営業しているか」、「これまでの経歴・職歴・実績」、「口コミ・評判」などを参考にしましょう。医師に良い施術者を紹介してもらえるのが一番です。

◆漫然と同じ治療を続けない

一週間に2、3回程度治療を受け、半月くらい続けても腰痛の改善が"全く"見られない場合は、他の施術者や治療法を試したり、専門の医師に診てもらうなど、治療方法を変えてみることが望ましいです。今受けている治療法が自分の症状には合っていないかもしれませんし、施術者が未熟なケースもあります。

ですが、少しずつでも症状が改善してきているなら、今度は逆に治療法を頻繁に変えるのはよくありません。腰痛は自然に治る「急性腰痛」であっても完治までに一ヶ月以上かかることがあります。慢性化している腰痛ならなおさら良くなるまでには時間がかかります。治療の成果が出ているのなら、結果を急いで治療法を変えるより、最低でも3ヶ月は同じ施設で同じ治療法を試したほうが、結果的には早く治る可能性が高いと思います。

スポンサーリンク

トップに戻る