精神的ストレス・心の不調によって起こる腰痛

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精神的ストレスが痛みの原因となる「心因性腰痛症」

腰痛には、ストレス、不安、鬱(うつ)などの心の不調が原因となっているケースがあります。こうした腰痛は心因性腰痛症(しんいんせいようつうしょう)と呼ばれ、ストレスの多い現代社会において数多く見られるようになりました。

心因性腰痛症について、その特徴的な症状、どうして痛みが起こるのか、どんな人が発症しやすいか、痛みにどう対処すればよいのか解説します。

<目 次>

  1. 腰痛の原因は一つではない
  2. なぜストレスで腰が痛むのか
  3. 心因性腰痛の特徴・症状
  4. こんな人に発症しやすい
  5. 診断と治療

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1.腰痛の原因は一つではない

医学の世界において、腰痛は腰の外傷(ケガ)や障害によって起こるものというのが少し前までの定説でした。
つまり腰が痛いのは、腰の筋肉や骨、椎間板、神経などに異常があるためとする考え方です。 そのため腰痛の検査もレントゲン撮影やMRIなどの画像診断が中心で、異常のある箇所を探しだして「ここの骨に原因があります」といった具合に診断を下してきました。そして目に見える異常がない場合は、おそらく腰の筋肉疲労や神経痛などによるもので、骨や椎間板には異常が見られないから心配ないですよ、と簡単に済まされてきました。

しかし近年の研究によって、腰痛の原因はもっと多様で複雑なものであることが分かってきました。

腰痛の主な原因は大きく4つに分けられます。


  1. 骨や筋肉の障害による痛み(器質的な痛み)
  2. 神経の障害による痛み(神経痛)
  3. 精神的ストレスによる痛み(非器質的な痛み)
  4. 内臓の病気による痛み

4つのうち一つだけが原因となっていることもあれば、複数の要因によって腰痛が起きている場合もあります。
中でも特に、体の異常にストレスなどの「心理・社会的要因」が加わることで腰痛が引き起こされるケースが多いことが分かってきました。
複数の身体的・精神的な要因が複雑にからみ合っていると、何が直接の原因となって痛みが起きているのか特定するのが難しくなります。

◆原因不明の「非特異的腰痛」とストレスとの関わり

実際の腰痛の事例において、原因がはっきりしていて「椎間板ヘルニア」などの病名で診断を下せるケースは、実はさほど多くありません。
痛みがあるのにレントゲンやMRIなどの検査画像では骨や椎間板などの組織に異常が見られず、明らかな原因を特定できないものが腰痛全体の85%を占めています。こうした原因不明の腰痛のことを医学的に非特異的腰痛と呼び、病院の診断では腰痛症坐骨神経痛という名称で呼ばれます。

腰の筋肉疲労や、腰の捻挫とよばれるぎっくり腰なども非特異的腰痛に分類されますが、詳しい原因がわからない事例がこれほど多いのは、腰痛の原因の多くにストレスが深く関係しているためです。

近年の研究結果から、非特異的腰痛の3分の2(腰痛全体の約半分)には、多かれ少なかれ、ストレス、不安、鬱(うつ)などの心理・社会的要因が関与していることが分かっています。心の問題が関わっている腰痛は心因性腰痛症または非器質性腰痛と呼ばれます。

◆ストレスが腰痛を複雑でやっかいなものにする

複数の要因がからむ腰痛において、主要な4つの要因のうちの "どれ" が "どの程度" 関係しているかは各個人で違います。
「心の痛み(ストレス)」が占める割合が大きいほど、原因不明の腰痛と診断される確率が高くなります。また、ストレスがからむと、"腰痛が発生する確率"や、"強い痛みが生じる危険性"も高まります。

例えば椎間板ヘルニアは、1〜3の要因すべてがからむ可能性があります。
椎間板から飛び出たヘルニアが神経に炎症を発生させたり(1)、ヘルニアが神経を強く圧迫したり(2)します。レントゲンでヘルニアが確認されても、ひどく痛む人と症状が全く出ない人がいるのは、心理・社会的な要因(3)があるかどうかが関係しています。続いてこの理由について解説します。

2.なぜストレスで腰が痛むのか

ストレスで腰が痛むはずがないと思うかもしれませんが、心の不調が体の不調として現れるのはよくあることです。実際、心理的な要因によって特定の臓器や器官に身体的症状が現われる病気は「心身症」と呼ばれています。
また、「病は気から」という言葉があるように、その人の気持ちの持ち方や、その時どきの心理状況によって、症状が良くなったり悪くなったりするのも決して珍しいことではありません。

続いてストレスが痛みを引き起こすメカニズムについて解説します。

◆原因① 痛みを抑える働きが弱まる

体の組織が損傷した時、痛みの信号は神経を伝って脳に伝わりますが、人間の脳にはこの痛みの信号を抑制するシステムが備わっています。
このシステムを下行性疼痛抑制系といい、普段の生活で疲労性の痛みが発生した時に、これをブロックして痛みを和らげてくれます。健康な人はこのシステムが正常に機能してくれているおかげで小さな痛みは感じずに済み、ある程度大きな痛みでも生活に支障がない程度に抑えられています。

ところが長期間ストレスや不安のある状態が続くと、この痛みを抑えるシステムがうまく働かなくなり、痛みを実際以上に強く感じるようになります。
例えば、腰が疲れた時のだるさや重さなど、普段なら痛みとして認識しないものが大きな痛みに変わったりします。

また、ストレスの蓄積は、体の様々な機能をコントロールする自律神経のバランスの崩れも引き起こします。自律神経が過敏になると、痛みを感じるセンサーが強く働くようになり、少しの症状でも強い痛みを感じるようになります。

◆原因② さまざまな病気の原因になる

ストレスがたまると胃が痛んだり胃潰瘍になりやすいといった話を聞いたことはないでしょうか。
過剰なストレスは心身に悪影響を与え、うつ病などの精神的な病気だけでなく、内臓の病気や生活習慣病の発症にも大きく関係しています。

1.自律神経失調症

強いストレスを受け続けて自律神経のバランスが崩れると、腰痛をはじめとする様々な不快症状が出てきます。これを「自律神経失調症」といいます。自律神経は体の機能を調節する神経で、全身に張り巡らされ、発汗や体温、呼吸、内臓の動きなどを調整しています。

自律神経には、体を活発に動かして、心身が緊張した時(ストレスがかかる時)に優位になる「交感神経」と、休憩したり眠気を感じたりと、心身がリラックスしている時に優位になる「副交感神経」があります。この2つの神経がバランスよく働いていれば体は健康な状態に保たれます。
ところが仕事や家事で頑張りすぎてストレスをため、十分に休息も取らない状態が続くと、自律神経のバランスが交感神経にばかり傾いてしまい、体のあちこちに不調が出てきます。

2.内臓の病気、身体の病気

ストレスが原因となりうる病気の中には、腰痛の症状が見られるものがあります。


3.生活習慣病

人は、心身に大きなストレスがあると、それを解消しようと暴飲暴食や過度の飲酒・喫煙に走りやすい傾向があります。生活習慣が乱れ、運動不足も重なると肥満につながります。ここに更にホルモンや自律神経のバランスの崩れも加わり、糖尿病、心臓病、脳卒中、高血圧、内臓脂肪型肥満などの生活習慣病が発症します。その結果、先に述べたような腰痛の原因となる内臓の病気を合併する危険性が高まります。

◆原因③ 思い込みによる痛み

人が頭の中で強く想像したり思い込んだりした結果が、実際に体の反応として現れることがあります。
例えば、テレビでとても痛い場面を見たり、過去に自分が痛い思いをした場面を強く思い浮かべたりすると、実際に痛みを感じるといった具合です。これは脳で記憶をつかさどる「海馬」という部分と、恐怖などの感情をつかさどる「扁桃体」という部分に密接な関係があり、互いに影響しあっているためであることが脳研究で明らかにされています。そして不安やストレスなど、心に大きな問題を抱えている人ほど、この作用が強まる傾向があります。

痛みに意識を集中したり必要以上に恐れるほど、より痛みを感じやすくなります。そうして発生した痛みが更なるストレスとなり、痛みをより強く感じるようになります。痛みのために活動する気がおきず家にこもりがちになり、ますます痛みにばかり気持ちが向いてしまうといった悪循環に陥ってしまいます。

こうした理由から、過去につらい腰痛を経験し、さらに心の問題を持つ人ほど腰痛が悪化・再発しやすく、慢性的な腰痛に陥りやすいのです。

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3.心因性腰痛の特徴

◆特徴的な症状

ストレスや不安などの「心理・社会的要因」が絡んだ腰痛には、以下の様な特徴が見られます。

異常なし

痛みの特徴

こうした特徴が多く当てはまるほど、腰痛に心理的要因が関わっている可能性が高いです。


◆慢性腰痛に多く見られる

腰痛は"痛み方"や"痛みが続く長さ"によって「急性腰痛」「慢性腰痛」に分けられます(参考:腰痛の種類)。
3か月以上腰痛が続くものが慢性腰痛で、心因性腰痛は慢性的な腰痛によく見られます。

EUが2004年に発表した「慢性腰痛の治療ガイドライン」によると、慢性腰痛の患者の1/3に、痛みの原因として「強いストレスなどの精神的問題」、「うつ症状」、「薬物乱用」の関与がみられたということです。また、慢性腰痛の患者の約80%に「抑うつ状態」(うつ病になりかけの状態)が確認されたとの報告もあります。
これは、ストレスなどの心の問題が腰痛を長引かせる大きな要因となるからです。

慢性化のカギはストレス

急性腰痛の90%は自然に治るといわれます。ぎっくり腰程度なら1〜2週間、その他の腰痛でも1ヶ月もすればたいぶ良くなります。しかし残りの10%は腰痛が3か月以上続き慢性化してしまいます。

急性腰痛が慢性化する原因として、骨や椎間板の変性が進んでいて治るのに時間がかかったり、内臓の病気が関係しているといったこともありますが、それよりもストレスなどの心理・社会的要因がかなり深く関わっていることが数々の研究データから明らかにされています。
前述したように、心の不調は痛みを増大させます。原因が精神的なものであることに気付かずに腰の治療ばかり行っていても、心の問題が解決されない限り完治することはなく、長引く痛みによってどんどん精神的に参っていき、更なるストレスによって腰痛をますます悪化させるという悪循環に陥ります。
また、腰を過保護にしすぎるのもよくありません。安静にしすぎて寝てばかりいると、気持ちがふさぎ込んだり、痛みに意識が集中してしまって新たなストレスとなります。
こうして本来なら自然に治るはずの急性腰痛をこじらせ、慢性化する確率が高くなるのです。


急性腰痛の原因となることも

心因性腰痛は慢性腰痛に多く見られますが、逆にストレスなどが原因でぎっくり腰のような急性腰痛が起こることもあります。

4.こんな人に発症しやすい

心因性腰痛は、ストレスや不安などの心理・社会的要因を持つ人に発症します。

◆社会的要因

【職場環境】

【家庭環境】

【その他】

◆心理的要因

【痛みや医療に対する考え方】

【性格・気質】

◆鬱(うつ)の症状がある

精神疾患である「うつ病」や、うつになりかけの「抑うつ」状態の人に腰痛がみられる場合、その多くが心因性の腰痛です。
以下の症状に多くあてはまる人ほど、うつ状態になっている可能性が高いです。

5.診断と治療

◆診断

心因性腰痛症には診断の決め手となるようなはっきりした症状がないため、問診による聴き取りの内容が重要になります。
「職場や家庭における悩みやストレス」、「うつ病が疑われる症状」、「長期にわたる慢性的な腰痛」、「腰痛以外の症状」、「医療不信」、「痛みに対する悩みやこだわりが深い」などが診断のポイントです。

腰痛は誤診が多い

心因性腰痛はストレスなどの心の不調が原因であるため、画像検査では腰に異常が見つからないことが多く、腰の疲れによる痛み(腰痛症)などと誤って診断されてしまいがちです。画像検査で何らかの異常が見つかったとしても、痛みの根本的な原因ではないため異常箇所を治しても痛みが収まらず、原因不明の腰痛とされてしまうようなケースが多いのが実情です。

もっとも重要な「問診」

心因性腰痛を正しく診断するのに最も重要なのは「問診」、つまり症状の聴き取りです。
実は腰痛のほとんどは、"問診"と"触診"を時間をかけてしっかりと行うことで、かなり正確に原因を推測することが可能です。
腰や足の痛み方、痛む箇所、痛む時間帯、痛み始めたきっかけ、どんな姿勢をとると痛むのかまたは和らぐのか、痛み以外の症状、これまでの病歴など、事細かく確認して原因を段階的に絞り込みます。更に痛む箇所を押してみたり、特定の姿勢から足を動かした時の反応や歩く状態をみたりと、触診や視診、理学検査などを組み合わせれば、より詳しく痛みの原因を絞り込むことができます。
また、しっかりと問診をしてもらうことで患者が満足感を得られ、色々な話を聞いていくことで患者との信頼関係を構築することができるといった利点もあります。

<充分な問診を行うには課題も多い>

問診で精度の高い診断を行うには、腰のどういう異常がどんな痛みを引き起こすのかといった知識が全て頭に入っていて、なおかつ実際に患者の状態を見て判断できなければいけないので、相当経験豊富な医者でないと難しいでしょう。また、患者の症状だけでなく心の問題を探るため、色々な質問をしながら少しずつ心や頭を解きほぐしていき、家庭内の事情や患者の過去などの込み入った話まで聴き取る必要があります。そのため十分な問診には30分〜1時間くらいの時間がかかります。なかなか打ち明けてもらえなかったり、ストレスが原因のはずがないと思い込んでいる場合も多く、患者と医師の信頼関係を築くために幾度も問診を重ねながら、腰痛の原因となっているストレスを突き止めていきます。
ところが実際には1人の患者にそれほど多くの時間をかけられないため、症状を確認するだけの数分間の簡単な問診で終わってしまうケースが多くなります。

原因不明の腰痛には高い確率で心理・社会的要因が関わっているため、心因性腰痛の可能性があるという前提で診断を行う必要があります。患者本人も全て医師に任せるのではなく、積極的に協力して一緒になって原因を探っていくという心構えが大切です。


◆治療・予防

心因性腰痛の治療には、不安やストレスの元が何であるかをはっきりさせ、原因を取り除いていく必要があります。それが難しいなら、ストレスがたまりすぎる前にうまく発散するような手段を持つことが重要です。

ストレスへの対処法・解消法については、別項「ストレス対策」で詳しく解説しています。

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