腰を温めて腰痛を解消する方法

腰を温めて血行を促進する治療法
腰痛を和らげる治療法の一つに、腰を温めて血液の流れを良くする「温熱療法(おんねつりょうほう)」があります。
腰や膝が痛い時は、患部を温める(場合によっては冷やす)と楽になるといわれます。温めることで痛みが軽減されるメカニズム、医療機関や自宅で行う方法、温めるか冷やすかの判断基準などついて解説します。
<目 次>
1.温熱療法の効果と、痛みが治まるメカニズム
◆「冷え」は痛みを強め、回復を遅らせる
腰痛の原因は、腰のケガ、筋肉疲労、神経の圧迫など様々ですが、痛みの発生には多くの場合「炎症」が関わっています。
炎症とは、体の組織がなんらかの強い刺激を受けた時に、体を守るために起きる自然な防御反応のことです。血管が広がることで患部が赤く腫れあがったり、熱を帯びたり、ズキズキ傷んだり、調子が悪くなったりといった症状が現れます。炎症は、筋肉、靭帯、骨、神経などあらゆる組織で発生します。
刺激が長く続いたり、新たな刺激が加わるなど、様々な要因によって炎症は悪化し、痛みが強まります。また、刺激がおさまっても、炎症自体が炎症を悪化させる化学物質の放出を促し、更に悪化するという悪循環に陥ることもあります。
こうした炎症や痛みを悪化させる要因の一つが、患部の冷えに伴う血行不良です。
冷えた箇所では血行(血液の流れ)が悪くなります。その結果、血液内の炎症を強める化学物質や疲労物質が排出されずにとどまるため、放っておくと腫れや痛みはどんどんひどくなり、損傷した組織も回復しにくくなります。
また、冷えによって筋肉は固くこわばり柔軟性がなくなります。筋肉の腰椎を支える働きが弱まり、腰にかかる負荷が増大して腰痛を発症しやすくなります。
◆血行を促進することで腰痛を解消する
温熱療法の目的は、腰を温めて血行を良くすることです。
血液の流れが良くなり組織の新陳代謝が活発になることで、痛みの元となる化学物質が取り除かれて腰痛が軽くなります。疲労物質も流れ出てゆき腰の疲労や損傷の回復が早まります。また、筋肉や関節のこわばりがとれて動きが良くなり、腰を支える働きも高まります。
こうしたことから、温熱療法は"腰の冷え"によって腰痛が悪化しているケースにおいて特に効果的です。
2.医療機関における温熱療法
病院など医療機関で行われる温熱療法では、ホットパック、電気、超音波、赤外線、レーザーなどが使われます。こうした機器は細胞のより深い部分まで温めることができるので、個人で腰を温めるよりも高い効果が得られます。
- 「ホットパック」
ジェル状の温熱剤が入ったパック。熱湯などで充分に温めてから腰に巻きつけるなどして使う。保冷剤の温熱版のようなもので、長時間温かい状態を維持できる - 「電気治療」
マイクロ波、低周波、高周波など照射して腰の内部から温める - 「超音波、赤外線、レーザー」
専用機器から照射して腰の内部から暖める
※体内にペースメーカーや骨折を固定するための金属、人工関節などが入っている部位には、超音波やマイクロ波を当てることはできません。
3.自宅で自分でできる温熱療法
自宅においても色々な方法で手軽に腰を温めることができます。
◆入浴・シャワー
毎日お風呂に入って腰を充分に温めましょう。
ただお風呂に入るだけでも体は十分温まりますが、そこにひと手間ひと工夫加えるだけで、更に温熱効果を高め、腰の痛みを抑えることができます。
温熱効果を高めるためのポイント
- 「時間と温度」
体を芯から温めるには、ある程度長い時間入浴する必要があります。ポイントは自分が心地よいと感じる温度でお風呂にゆっくりつかることです。少しぬるめに感じる温度(38〜40度くらい)で、20〜30分くらいやや長めに入浴することで、体に負担をかけずに体の奥から温めることができます。
無理に熱いお湯に入ると、高温による強い刺激で体や心臓に負担がかかって心拍数も大きく上がり、リラックス効果もあまり得られません。長く入ることもできずすぐにのぼせてしまいます。また、交感神経を刺激しすぎてストレス解消効果が薄れるだけでなく、脳卒中の危険性も高まります。
※交感神経:心拍促進、血圧上昇などにかかわる自律神経系統 - 「頻度」
可能であれば朝と夜の1日2回入浴するとより効果的です。 - 「慢性的な痛みに効く入浴法」
温水と冷水を交互に使う「交代浴」がオススメです。温熱効果が高く、慢性腰痛のほかに冷え性にも効果的です。
やり方は、はじめにぬるめのお湯に5〜10分ほど入って体を温め、次に15〜20度くらいのやや冷たい水を腰にかけます。再びお湯に3〜4分つかって、また水をかけて…、これを5〜7回繰り返します。
血管の拡張と収縮が繰り返されて血行がよくなり、お風呂の温熱効果を高めることができます。体の芯から温まってポカポカしてくるのが感じられます。 - 「その他」
お風呂に長くつかるのが大変なら、下半身だけお湯に入る「半身浴」でも大丈夫です。上半身が冷えないようにタオルなどをかけておきましょう。冷え性の人は湯冷めしないように就寝前に入浴して腰が温まった状態で布団に入ったり、湯船の中で腰のマッサージを行うと、より効果を高めることができます。
注意事項
- 入浴中はかなり汗をかきます。長く入浴するときは水分をしっかりとりましょう
- のぼせを防ぐため、ときどき浴槽から出たり半身浴も行いましょう
- マッサージやストレッチングは体が十分温まってから行いましょう
- 足を滑らせないように気をつけましょう
◆蒸しタオル、カイロ、温シップ
熱めのお湯を絞ったタオルや、電子レンジで温めたタオルを、腰にあてたり巻いたりします。冷めやすいため長時間の使用には不向きですが、準備の手間がほとんどなく、手軽に繰り返し行えるのが利点です。
カイロや温シップを腰にあてて温めるのもよく行われる方法です。
1回の使用で10時間程度効果が持続するため使いやすいです。カイロは皮膚に直接あてると低温やけどになる恐れがあるので、衣類やタオルの上からあてた状態で固定しましょう。
◆腹巻きやサポーター、コルセットなど
外気による冷え対策に有効です。家庭内だけでなく、職場や冷気にさらされる外出時にも忘れずに着用しましょう。乗り物や建物内では、冬の寒い時期だけでなく夏でも冷房で腰が冷えすぎることがあるので一年中使う機会があります。
サポーターは普通のものでも保温効果がありますが、遠赤外線効果のあるもの、カイロを入れるポケットの付いたもの、腰を支える金属製の支柱やバンドつきのタイプもあります。支柱入りタイプは姿勢をよくしたり腰の負担を軽減できるため、姿勢の悪い人や、椎間板ヘルニアなど腰椎の変性が進んだ人におすすめです。ただし、腰をしっかり支えるサポーターやコルセットを長期間使用すると、腰の筋肉が衰える恐れもあるので、どうしても使い続けたい場合はサポート力の弱い薄手のものを選びましょう。
注意事項
- サポーターやコルセットは市販品も含めて種類が多いため、迷ったらどんなタイプがよいか医師に相談して選びましょう。
- 腰に巻きつけるタイプのものは、ゆるすぎてもダメですが締め付けが強いものもよくありません。きつすぎると血行が悪くなって逆効果ですし、腰の曲げ伸ばしもしにくくなります。また、かゆくなったりするのでできる限り試着をしてサイズを確認しましょう。
【参考】
4.温めるのか冷やすのか
痛みに対する対処法には「温める」と「冷やす」の2種類があります。どちらでもよいとか、どちらの方が効果が高いといったことはなく、症状ごとに使い分けねばなりません。
◆温めたほうがよいケース
温めたほうがよいのは、すでに述べたとおり"血行の悪さ"が痛みを悪化させている場合です。
血行不良からくる痛みは、急激で激しい痛みではなく、重苦しく鈍い痛みです。こうした痛みは慢性的な腰痛で見られ、多くの場合、腰のコリや張り、ダルさ、疲れなどを伴います。
患部がほてったり腫れたりしていない時は、入浴やカイロなどで腰を温めて血液の流れを良くするのが効果的です。逆に冷やすと血行が悪くなり、症状が悪化します。
◆冷やしてよいケース
冷やした方がよいのは、炎症が急激に広がって患部が熱をもっている場合です。
捻挫・打撲・骨折などの突発的なケガに見られます。ぎっくり腰などが良い例で、急性の炎症によって急で激しい痛みを伴います。
「痛みが激しい場合や、腰が腫れあがって熱をもっている場合は冷やす」と覚えておきましょう。
熱をもっている箇所やその周辺を冷やすことで、炎症の広がりや内出血を抑えて痛みを軽減することができます。腰を激しく打ったりケガをした場合は、できる限り早く冷やすことが重要です。
冷やす場合には、氷のう(アイスバッグ)や、水・氷を入れたビニール袋を使います。氷の入った薄いビニールでは冷たすぎて凍傷になる恐れがあるため、直接患部に当てずにタオルなどの上から当てます。15〜20分冷やして10分休みを繰り返しましょう。これを腫れや痛みが治まるまで毎日続けます。
急性の炎症は長くても1週間程度でおさまるので、いつまでも症状が改善しない時は病院で診察を受けてください。
◆まとめ
- ぎっくり腰や腰のケガなどの急性腰痛では、「急で激しい痛み」や「腰のほてりや腫れ」が見られることが多い。こういう場合は冷やす
→痛みや腫れ、熱感が落ち着いてきたら温める - さほど強くない鈍痛が長く続く慢性腰痛の場合も温めるのが良い。もし温めることで痛みが増したり腫れてくるようなら冷やす